☆ 「モズの穴」
もずの穴(27) 元川 芹香
あれ?山猿の姿が見えない。「ねぇ、山猿は?」 ボクはどうにか切れ切れの声で聞く。「山猿って?」 フジ子さんはボクのからだをタオルで拭きながら訊いた。
「この縄でぼくを助けてくれた、竜太って子。たしか、さっちゃんがどうのって変なこと言ってたけど」 ジージとフジ子さんが顔を見合わせている。「惇ちゃん。今日は疲れたでしょ」
明日、山猿のところへフジ子さんとボクは、お礼に行くことにした。のだが…
からだの節々が痛いし、頭もぽわんとしている。フジ子さんは体温計を見ながらぼくに言った。「ねぇ、惇ちゃん。ちょっと熱があるみたよ。山猿さんはまた今度にしましょ?」
「ダメだよ。命の恩人にきちんとお礼を言わないと。ねっ父さん」 母さんが死んで以来、初めて父さんと呼んだ。父さんは少し困った顔をして僕を見ている。
「それなら、父さんが淳一の代わりに伺ってくるよ」 「それはもっとダメ。自分の事は自分でしなさいって母さんがよく言ってた」 フジ子さんの眉が八の字になる。
「一度言い出したらこの子聞かないのよね」 「そう、フジ子さんの孫だもん」 「私が支えていますから、惇一の好きなようにさせてやってくれませんか?」
やった。父さんはぼくに加勢してくれた。「仕方ないわね。じゃあ、お供を買っていきますか」 お供って…どういうことだ? <続く>
あれ?山猿の姿が見えない。「ねぇ、山猿は?」 ボクはどうにか切れ切れの声で聞く。「山猿って?」 フジ子さんはボクのからだをタオルで拭きながら訊いた。
「この縄でぼくを助けてくれた、竜太って子。たしか、さっちゃんがどうのって変なこと言ってたけど」 ジージとフジ子さんが顔を見合わせている。「惇ちゃん。今日は疲れたでしょ」
明日、山猿のところへフジ子さんとボクは、お礼に行くことにした。のだが…
からだの節々が痛いし、頭もぽわんとしている。フジ子さんは体温計を見ながらぼくに言った。「ねぇ、惇ちゃん。ちょっと熱があるみたよ。山猿さんはまた今度にしましょ?」
「ダメだよ。命の恩人にきちんとお礼を言わないと。ねっ父さん」 母さんが死んで以来、初めて父さんと呼んだ。父さんは少し困った顔をして僕を見ている。
「それなら、父さんが淳一の代わりに伺ってくるよ」 「それはもっとダメ。自分の事は自分でしなさいって母さんがよく言ってた」 フジ子さんの眉が八の字になる。
「一度言い出したらこの子聞かないのよね」 「そう、フジ子さんの孫だもん」 「私が支えていますから、惇一の好きなようにさせてやってくれませんか?」
やった。父さんはぼくに加勢してくれた。「仕方ないわね。じゃあ、お供を買っていきますか」 お供って…どういうことだ? <続く>