☆ 「モズの穴」
もずの穴(24) 元川 芹香
もう一つの伝説はなぁ、「ある豪農の主が、この池のほとりで家の小作人達と酒盛りをしていた時の話なだが。酔いもまわり、そろそろ帰ろうということになった。
主は酔っ払った勢いで 『俺は龍神を見るまでは帰らない』 と、一人残ったんだとか…。一人取り残されると急に心細苦くなって、ますます酒がすすんだ。
クラクラになったとき、目の前に龍神が ヌゥ っと出てきて睨んでいたんだそうだ。腰を抜かした主は、四つんばいでどうにかこうにか近くの草むらまで逃げて来た。
今度は目の前に口を開けた大蛇が舌を出して、飛びかかってきたんだ。必死に家まで走って逃げ帰った主は、その後しばらく病気になってしまったんだってさ。
主からその話を聞いた家の者は、池の龍神様を毎日拝んだ。そうしたら、主の病は治ってめでたし、めでたし」 ちなみに、主の見た龍神は、そこにあった大木だったという。
「うんうん、こっちの方が真実っぽいね。でも、さっきの王族の話も気になるなぁ? 麻呂様がこの辺りで追っ手の武士の矢で倒れて、龍神に化身するのもロマンチックだと思わない」
「親子だな」 と、山猿は小さな声で言った。「今、なんていったの?」 「白チンみたいなのが、歴史を創作してしまうって言ったの!」
「山猿らしくないことを言んだね。とにかく、ボクはその青い龍見てみたいんだ」 「いや、もう絶対に帰ったほうがいい。
ほら、空が暗くなってきた」 山猿は空を見上げる。「平気だって。まだ二時だし、それに向こうの空は明るいよ」 ボクは、ずっと向こうの明るい空を指差した。
「オマエは都会の人間だろ、山の天気をあまく見るんじゃない!」 「そんなに帰りたければ山猿一人で帰ればいいじゃん。ぼくにはジージの地図があるから大丈夫だ!」
「オマエは俺と同じだから…。それにそんなことしたら、さっちゃんに叱られる」 サッチャン?…。 <続く>
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「モズの穴」 も、いよいよ佳境に入ります。閲覧していただいたビジターの皆さん、2017年も良い年でありますように。
もう一つの伝説はなぁ、「ある豪農の主が、この池のほとりで家の小作人達と酒盛りをしていた時の話なだが。酔いもまわり、そろそろ帰ろうということになった。
主は酔っ払った勢いで 『俺は龍神を見るまでは帰らない』 と、一人残ったんだとか…。一人取り残されると急に心細苦くなって、ますます酒がすすんだ。
クラクラになったとき、目の前に龍神が ヌゥ っと出てきて睨んでいたんだそうだ。腰を抜かした主は、四つんばいでどうにかこうにか近くの草むらまで逃げて来た。
今度は目の前に口を開けた大蛇が舌を出して、飛びかかってきたんだ。必死に家まで走って逃げ帰った主は、その後しばらく病気になってしまったんだってさ。
主からその話を聞いた家の者は、池の龍神様を毎日拝んだ。そうしたら、主の病は治ってめでたし、めでたし」 ちなみに、主の見た龍神は、そこにあった大木だったという。
「うんうん、こっちの方が真実っぽいね。でも、さっきの王族の話も気になるなぁ? 麻呂様がこの辺りで追っ手の武士の矢で倒れて、龍神に化身するのもロマンチックだと思わない」
「親子だな」 と、山猿は小さな声で言った。「今、なんていったの?」 「白チンみたいなのが、歴史を創作してしまうって言ったの!」
「山猿らしくないことを言んだね。とにかく、ボクはその青い龍見てみたいんだ」 「いや、もう絶対に帰ったほうがいい。
ほら、空が暗くなってきた」 山猿は空を見上げる。「平気だって。まだ二時だし、それに向こうの空は明るいよ」 ボクは、ずっと向こうの明るい空を指差した。
「オマエは都会の人間だろ、山の天気をあまく見るんじゃない!」 「そんなに帰りたければ山猿一人で帰ればいいじゃん。ぼくにはジージの地図があるから大丈夫だ!」
「オマエは俺と同じだから…。それにそんなことしたら、さっちゃんに叱られる」 サッチャン?…。 <続く>
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「モズの穴」 も、いよいよ佳境に入ります。閲覧していただいたビジターの皆さん、2017年も良い年でありますように。
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☆ 「モズの穴」
もずの穴(23) 元川 芹香
「昨日、龍神伝説って言ってたけど、それってどんな話なの?」 もう、二個目のおにぎりを掴んでいた山猿に尋ねた。
「伝説っていってもよくある作り話さ。二つあるんだ。ひとつは、この池を下った集落に伝わる話でな。昔、そこに住んでいたきれいな姫が、戦で怪我をして倒れていた武士を助けたんだ。
その姫と武士は仲良しになったんだけれど、姫の母ちゃんが武士の鎧をみて、『きっと偉いお侍さんに違いない。姫の婿にしましょう』 と言い出した。でも、武士は何も言わなかった。
母ちゃんは逃げられると思い、武士の足に赤い糸を結ぶよう姫に言いつけた。朝起きると武士の姿はなく、大きな赤い糸の玉が小豆ほど小さくなっていた。
二人はそれをたどって行くと、この池のほとりにたどり着いたんだ。すると、池の中から一匹の青い龍が空高くせせり上がった。
驚いていた姫に向かって、『落ち武者が投げ捨てた矢が、からだに刺さって苦しんでいたところを、あなた様に助けてもらいました。このご恩は一生忘れません。
この土地が豊かに潤うよう、私はこの池の主として生涯お守りしています』 と礼を言うと、また池の中に潜っていったということだ。お終い」話し終わると、山猿は手にしたおにぎりを三口ほどで平らげた。
「なんか、平家物語にも似たようなものがあるなぁ?」 「似ているって、そっちが本家に決まってるさ。その頃の王族が隠れ逃げて来た時、この辺りを通ったという言い伝えがあるんだから」
山猿は、手についた米粒を名残惜しそうにペロペロ舐めた。「なるほど…で、もう一つの伝説というのは?」 「それはこの付近に伝わる昔話だ」 <続く>
「昨日、龍神伝説って言ってたけど、それってどんな話なの?」 もう、二個目のおにぎりを掴んでいた山猿に尋ねた。
「伝説っていってもよくある作り話さ。二つあるんだ。ひとつは、この池を下った集落に伝わる話でな。昔、そこに住んでいたきれいな姫が、戦で怪我をして倒れていた武士を助けたんだ。
その姫と武士は仲良しになったんだけれど、姫の母ちゃんが武士の鎧をみて、『きっと偉いお侍さんに違いない。姫の婿にしましょう』 と言い出した。でも、武士は何も言わなかった。
母ちゃんは逃げられると思い、武士の足に赤い糸を結ぶよう姫に言いつけた。朝起きると武士の姿はなく、大きな赤い糸の玉が小豆ほど小さくなっていた。
二人はそれをたどって行くと、この池のほとりにたどり着いたんだ。すると、池の中から一匹の青い龍が空高くせせり上がった。
驚いていた姫に向かって、『落ち武者が投げ捨てた矢が、からだに刺さって苦しんでいたところを、あなた様に助けてもらいました。このご恩は一生忘れません。
この土地が豊かに潤うよう、私はこの池の主として生涯お守りしています』 と礼を言うと、また池の中に潜っていったということだ。お終い」話し終わると、山猿は手にしたおにぎりを三口ほどで平らげた。
「なんか、平家物語にも似たようなものがあるなぁ?」 「似ているって、そっちが本家に決まってるさ。その頃の王族が隠れ逃げて来た時、この辺りを通ったという言い伝えがあるんだから」
山猿は、手についた米粒を名残惜しそうにペロペロ舐めた。「なるほど…で、もう一つの伝説というのは?」 「それはこの付近に伝わる昔話だ」 <続く>
☆ 「モズの穴」
もずの穴(22) 元川 芹香
ジージの地図には、青龍ヶ池への道は神社の裏手に細い近道があると記されている。鳥居をくぐり境内の裏から続く細い獣道を歩いた。昼間というのに薄暗くジメジメとした道。
ガサガサガサガサと、物音がした。ボクは、フジ子さんのお守り思わずを握りしめた。「やっぱり行くんだな」 後ろを振り返るとヤツがいた。
「山猿ぅ~」 ボクはなんだかホッとした。「きょうは、あんまり雲行きが良くないぞ」 嬉しすぎて、山猿のいった言葉が耳に入ってこない。
「今日も創立記念日?」 「バカ言え!今日は日曜だ!」 「そっか、昨日ごめんね。早くもずを取りたかったから、あんなことしちゃった」 「なんのことだ?」
山猿は口笛を吹きながら、ぼくの前でしきりに近くの草のみを摘んでいる。かと思ったら、「目標、白チン。襲撃開始!」 と、イガイガ付いた実をぼくに向かって投げつけてきた。
「もう、痛いよ!」 ボクのポロシャツにいがいがの実が沢山張り付いている。「わはっはっはっは。バカ草銃撃の威力を見たか!今から、オマエはバカ人間だ!」
なんてヤツだ。「ずるいぞ!山猿ごときに負けるもんか!」 そうこうして歩いていると、いつの間にか青龍ヶ池に辿りついていた。
池は透きとおってはいないけれど、青みがかった薄緑色。池の回りには艶やかな緑色のブナの木々が生い茂り、中でも一本ひときわ太く大きな大木が目についた。
「すごく神秘的な池だね」 「そうか?ただの沼池だよ」 ボクは近くにあった切り株で出来たベンチに座り山猿を呼ぶ。「山猿、いいものを持って来たんだ!」
早速リュックから包みを取り出しその一つを渡すと、すぐ山猿は開いた。「味噌おにぎりか?オレ、これ大好きなんだ」 山猿は嬉しそうにかぶりつく。そして、ぼくもがぶり。
ボクの学校の校庭が四つ、五つ入りそうな大きな池のそばで食べる、今日のおにぎりはことのほか美味しい。 <続く>
ジージの地図には、青龍ヶ池への道は神社の裏手に細い近道があると記されている。鳥居をくぐり境内の裏から続く細い獣道を歩いた。昼間というのに薄暗くジメジメとした道。
ガサガサガサガサと、物音がした。ボクは、フジ子さんのお守り思わずを握りしめた。「やっぱり行くんだな」 後ろを振り返るとヤツがいた。
「山猿ぅ~」 ボクはなんだかホッとした。「きょうは、あんまり雲行きが良くないぞ」 嬉しすぎて、山猿のいった言葉が耳に入ってこない。
「今日も創立記念日?」 「バカ言え!今日は日曜だ!」 「そっか、昨日ごめんね。早くもずを取りたかったから、あんなことしちゃった」 「なんのことだ?」
山猿は口笛を吹きながら、ぼくの前でしきりに近くの草のみを摘んでいる。かと思ったら、「目標、白チン。襲撃開始!」 と、イガイガ付いた実をぼくに向かって投げつけてきた。
「もう、痛いよ!」 ボクのポロシャツにいがいがの実が沢山張り付いている。「わはっはっはっは。バカ草銃撃の威力を見たか!今から、オマエはバカ人間だ!」
なんてヤツだ。「ずるいぞ!山猿ごときに負けるもんか!」 そうこうして歩いていると、いつの間にか青龍ヶ池に辿りついていた。
池は透きとおってはいないけれど、青みがかった薄緑色。池の回りには艶やかな緑色のブナの木々が生い茂り、中でも一本ひときわ太く大きな大木が目についた。
「すごく神秘的な池だね」 「そうか?ただの沼池だよ」 ボクは近くにあった切り株で出来たベンチに座り山猿を呼ぶ。「山猿、いいものを持って来たんだ!」
早速リュックから包みを取り出しその一つを渡すと、すぐ山猿は開いた。「味噌おにぎりか?オレ、これ大好きなんだ」 山猿は嬉しそうにかぶりつく。そして、ぼくもがぶり。
ボクの学校の校庭が四つ、五つ入りそうな大きな池のそばで食べる、今日のおにぎりはことのほか美味しい。 <続く>
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☆今日は何の日 -官公庁御用納め
今日は、官公庁御用納めです。
市区町村役場などの公務員の休日は、「行政機関の休日に関する法律」 で決められていて、年末年始の休みの前のその年の最後の事務をとることをいいます。
1873(明治6)年から、官公庁は12月29日から1月3日までを休暇とすることとなっており、28日が仕事納めになります。なお、12月28日が土・日曜日の場合は、直前の金曜日となります。
銀行は30日まで窓口業務を行っているところが多く、通常は12月31日~1月3日までの休みとなります。ただし、キャッシュコーナーのATMは年末年始も利用できるところが多いようです。
また、コンビニにあるATMは年中24時間いつでも使えるイメージがありますが、提携している銀行によっては年末年始に休みがある場合もあります。事前に確認をしておくことが大切です。
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“K-Fujio じぃーじのブログ“ は、明日から31日まで、ご好評を頂いている元川芹香作さん作 「もずの穴」 を連載いたします。
市区町村役場などの公務員の休日は、「行政機関の休日に関する法律」 で決められていて、年末年始の休みの前のその年の最後の事務をとることをいいます。
1873(明治6)年から、官公庁は12月29日から1月3日までを休暇とすることとなっており、28日が仕事納めになります。なお、12月28日が土・日曜日の場合は、直前の金曜日となります。
銀行は30日まで窓口業務を行っているところが多く、通常は12月31日~1月3日までの休みとなります。ただし、キャッシュコーナーのATMは年末年始も利用できるところが多いようです。
また、コンビニにあるATMは年中24時間いつでも使えるイメージがありますが、提携している銀行によっては年末年始に休みがある場合もあります。事前に確認をしておくことが大切です。
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“K-Fujio じぃーじのブログ“ は、明日から31日まで、ご好評を頂いている元川芹香作さん作 「もずの穴」 を連載いたします。
☆ 「モズの穴」
もずの穴(21) 元川 芹香
翌朝、ボクは卵かけごはんを食べながら、新聞を読んでいるジージに聞いた。「ジージ。龍の住む池ってどうやって行けばいいの?」
「青龍ヶ池か?八木森神社の裏山の道を歩いて行けばすぐ着くよ。三十分位かな。一緒に行くか?」 ジージは、老眼鏡の隙間からチラリとぼくを見た。「ううん。昨日知り合った友達と行くからいいよ」
「そうか。もう友達できたのか。一本道でちょっと狭いが車も通れる道だ。それに、所々青龍ヶ池行きの矢印標識もあるから迷う事もないだろう。友達ってどこの子だ?」
「神社の子」 「ふ~ん。神主の孫か?惇と同じくらいの子供がいたとは初耳だ。地元の子と一緒に行くんであれば大丈夫だな」 ジージはまた新聞をめくり始めた。
黙って話を聞いていたフジ子さんがお茶を入れている。何にも言わないのはとても不気味だ。「フジ子さん。また味噌おにぎり作ってくれる?」
「それはいいけど…、絶対池とかに入っちゃダメたからね。それと、道からそれて山の奥に入ってもダメ、蛇とかいるんだからね。探検なんて言わなきゃよかったわ」 なんだ、心配してくれていたのか。
「わかった!」 ボクは嘘をついてしまった。でも、一人で行くなんていったら、絶対許してもらえないし、あんなに怒った山猿は、今更謝ったところでついて着てはくれないだろう。
フジ子さんは二人分のおにぎりと、麦茶入りの水筒が入ったリュックをぼくに背負わせた。それから、「お守りよ」 と大きな鈴のついた小さな赤い袋をくくり付ける。念のための、熊よけの鈴だそうだ。
「日が暮れる前に帰ってくるのよ」 フジ子さんは、不安そうにぼくのお尻を叩く。「ほらっ」 ジージは、手書きの地図をボクにくれた。 <続く>
翌朝、ボクは卵かけごはんを食べながら、新聞を読んでいるジージに聞いた。「ジージ。龍の住む池ってどうやって行けばいいの?」
「青龍ヶ池か?八木森神社の裏山の道を歩いて行けばすぐ着くよ。三十分位かな。一緒に行くか?」 ジージは、老眼鏡の隙間からチラリとぼくを見た。「ううん。昨日知り合った友達と行くからいいよ」
「そうか。もう友達できたのか。一本道でちょっと狭いが車も通れる道だ。それに、所々青龍ヶ池行きの矢印標識もあるから迷う事もないだろう。友達ってどこの子だ?」
「神社の子」 「ふ~ん。神主の孫か?惇と同じくらいの子供がいたとは初耳だ。地元の子と一緒に行くんであれば大丈夫だな」 ジージはまた新聞をめくり始めた。
黙って話を聞いていたフジ子さんがお茶を入れている。何にも言わないのはとても不気味だ。「フジ子さん。また味噌おにぎり作ってくれる?」
「それはいいけど…、絶対池とかに入っちゃダメたからね。それと、道からそれて山の奥に入ってもダメ、蛇とかいるんだからね。探検なんて言わなきゃよかったわ」 なんだ、心配してくれていたのか。
「わかった!」 ボクは嘘をついてしまった。でも、一人で行くなんていったら、絶対許してもらえないし、あんなに怒った山猿は、今更謝ったところでついて着てはくれないだろう。
フジ子さんは二人分のおにぎりと、麦茶入りの水筒が入ったリュックをぼくに背負わせた。それから、「お守りよ」 と大きな鈴のついた小さな赤い袋をくくり付ける。念のための、熊よけの鈴だそうだ。
「日が暮れる前に帰ってくるのよ」 フジ子さんは、不安そうにぼくのお尻を叩く。「ほらっ」 ジージは、手書きの地図をボクにくれた。 <続く>
タグ:モズの穴