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☆ 「モズの穴」

もずの穴(28) 元川 芹香

八木森神社からすこし離れた赤い屋根の家。そこが山猿の住んでいる家らしい。「ごめんください。昨日はお騒がせいたしました」 フジ子さんがまず挨拶した。

「とんでもありませんよ。よくいらっしゃいました。ボク、助かって本当によかったね」 この人は山猿のお婆さんかな?フジ子さんと同じくらいの年に見える。

「はい。竜太さんに助けてもらったのでご挨拶に伺いました。まだ、学校じゃないですか?」 フジ子さんは急かしたけれど、この時間は授業中のはずだ。
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「まぁ、しっかりしたお子さんだこと!…早く竜太に会ってやってください。あの子も喜ぶと思うわ」 ぼくたちは広い座敷に招かれた。

フジ子さんとジージは家の人に言われるともなく、その座敷の真ん中の大きな仏壇に手を合わせ始めた。「惇ちゃん。山猿…いえ、この子が竜太君よ」

フジ子さんはもう一度一礼し、そこに立てあった茶色に焼けたカラー写真を指差した。フジ子さん、何言っちゃっているんだ?こんな四角い中に、山猿がいるわけがない…と、目を見開いて見やった。

けれどそれは紛れもなく、ボクの知っているあの黄色いTシャツと茶色の短パン姿の山猿だった。

「驚いたでしょ?こちらに伺った時、フジ子さんたちもびっくりしたわ。『お孫さんは?』 って伺ったら、それはかわいいお嬢さんが見えたの。それでフジ子さんやっと思い出したの。

幸恵、あなたのお母さんに、ちょうど今のあなたぐらいの頃に男の子の友達がいて、それがこの竜太君だったってことを。ずっと昔のことだったから、忘れてしまっていたのよ。ごめんね、竜太君!」

フジ子さんはまた仏壇に手を合わせる。ぼくは涙が止まらない。「ほら、惇ちゃん。竜太くんにお礼を言うんだったでしょ」 「…うん」 どうやってお参りしていいかわからなかった。

でもチンチンと鐘を叩いて 「ありがとう」 「ありがとう」 って、何度も何度も頭を下げた。

「ありがとう淳一君。竜太もきっと喜んでいるわ。こんなにステキな友達が出来たんですもの。それも、さっちゃんのお子さんなんてなおのこと」 <続く>。

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