☆「モズの穴」
もずの穴(4) 元川 芹香
夜中トイレに起きたボクは、リビングで一人庭のリコリスを見つめている母さんを見たことがある。電柱の外灯をうけて母さんもリコリスも、闇夜でゆらぐ赤い炎に見えた。
あの時、母さんもアイツを殺そうと思っていたに違いない。ボクはリコリスを手に取り、そっと心の中で誓った。―母さん、必ず復讐してやるよ!―
今日は社会科見学の日。先週のことだった。ぼくの班の誰かが、回転寿司屋に行きたいと言い出した。そこにはアイツが勤めている。
それは絶対に許されないことだ。ボクは小さな印刷工場を猛烈にアピールしたが、『紙なんかよりも寿司が回ってるのを見てた方が楽しい』 という理由で六対一の惨敗に終わった。
当然だが、ボク等が見学に行くことをアイツには伝えていない。アイツがぼくの父親だと知られたくなくて、店に入ってからずっと下を向いていた。
不幸中の幸い、仕事の説明を若い女の人がすることになった。なぜなら、アイツはお客さんの苦情対応中でそれどころではなかったからだ。
「あんたんとこは、客にカラカラに干からびたネタを食わせる気かぁ?店長さん、これ食ってみろよ。これはマグロじゃないぜ。マグロジャーキーだ!」
黒のサングラスを鼻の下まで降ろし、覗き込むように絡んでいるお兄さん。赤い龍のジャージはチンピラ風としか言いようがない。 <続く>
夜中トイレに起きたボクは、リビングで一人庭のリコリスを見つめている母さんを見たことがある。電柱の外灯をうけて母さんもリコリスも、闇夜でゆらぐ赤い炎に見えた。
あの時、母さんもアイツを殺そうと思っていたに違いない。ボクはリコリスを手に取り、そっと心の中で誓った。―母さん、必ず復讐してやるよ!―
今日は社会科見学の日。先週のことだった。ぼくの班の誰かが、回転寿司屋に行きたいと言い出した。そこにはアイツが勤めている。
それは絶対に許されないことだ。ボクは小さな印刷工場を猛烈にアピールしたが、『紙なんかよりも寿司が回ってるのを見てた方が楽しい』 という理由で六対一の惨敗に終わった。
当然だが、ボク等が見学に行くことをアイツには伝えていない。アイツがぼくの父親だと知られたくなくて、店に入ってからずっと下を向いていた。
不幸中の幸い、仕事の説明を若い女の人がすることになった。なぜなら、アイツはお客さんの苦情対応中でそれどころではなかったからだ。
「あんたんとこは、客にカラカラに干からびたネタを食わせる気かぁ?店長さん、これ食ってみろよ。これはマグロじゃないぜ。マグロジャーキーだ!」
黒のサングラスを鼻の下まで降ろし、覗き込むように絡んでいるお兄さん。赤い龍のジャージはチンピラ風としか言いようがない。 <続く>
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