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☆母の世界

母の世界 (13) 作 元川 芹香

〈水彩画〉

母の絵心は幼い頃からあったらしい。絵画の展覧会は好きでよく観に行っていた。私の夏休みの宿題で図画となると、張り切って手を加えてくれた。兄も加勢した。

おかげからか、いつも展覧会で出はいつも金賞。ときには特選をとり、公民館に張り出されこともあった。

私は良心の呵責から泣きながら 「今度は少し下手くそに書いて~」 って頼んでも 「下手に書けるわけないでしょ!」 と子供の宿題たりとて手抜きしない。

もち前の才能と美的センスで10年ほど前から描き始めた水彩画が、あっという間に日本水彩画展入選。なんと、今年は県展に初入選をなしとげた。

「よし、この次は~」 といつまでも向上心を持ち続ける母には心から敬復している。

〈青本〉

「青本」 とは 「家庭の医学書」 のこと。我が家ではややもすれば医者より信頼があった。ちょっと気になると 「青本」 片手に自分で病気を診断してしまうヘキがある。

その症状が 「悪性腫瘍」 に似ていると、もうすっかりガン患者になりきり、何も手がつかないくらいふさぎ込んでしまうからだ。

「舌ガン」 にはじまりお決まり 「胃ガン」、風邪でチョットせき込めば 「肺ガン」。下痢がつづけば 「大腸ガン」 ありとあらゆる 「ガン」 がお友達だ。

その度、父は 「お前はガンガンだ!」 と笑えないダジャレが飛ばす。検査結果が出るまで、それはそれは大変なことだ。

とどのつまり 「なんでもないってさ。アー良かったわ」 とそのたびに毎回ケーキを買って帰るところを見ると、本人はお祝いのつもりらしい。

我が家のケーキ振舞いは誕生日とクリスマス以外にも、母のご機嫌のバロメータの証でもあった。 <つづく>



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