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☆猫屋敷

猫屋敷(11) 作 元川 芹香

冬は寒く夏は暑い、住み慣れたこの家は後一か月後に取り壊される羽目になった。2階の雨板と壁の間に巣づくりし、夕暮れにはそこから何羽となく飛び立つコウモリ。

幼稚園児だったそそっかしやのお兄ちゃん、ボチャンと落ちてウンをつけたボットントイレ。昼でも薄暗く蛍光灯がいる台所。

やたら傾斜がきつく,ギシギシ音のする梯子段。母屋からひさし伝いに渡り遊んだトタン屋根。調子にのり過ぎて足を踏み外し中庭に落ちたことも、みんなお転婆リカの思い出のようだ。

長年慣れ親しんだその家も、メルヘンチックな家にかなうはずもなく。「猫はどうするの?」リカの心配は全くの無駄だった。

「何言ってるの。新しい家に猫なんか入れる訳ないでしょう!あの猫達はもともと野良なんだから、どうにでも生きていけるわよ」ママの都合の良い早い話、彼らを見捨てたのである。

犬は「人」 につくが、猫は 「家」 につくという定説は本当のことだった。新しい家が完成した時には一匹たりとて戻ってはこかなかった。

時折どこかで姿は見掛けたとママは言ってたが、それだけだった。新築の家の香も消えぬうち、リカもお兄ちゃん同様、あこがれの東京へと逃げていった。就職だから仕方あるまい。

この家は猫にも子供たちにも居着かれなかった、どうしてだろう。その訳は何か?考えながら、性懲りもなく飼いはじめた柴犬と、研究しがいのあるママを日夜観察している。 <おしまい>

【あとがき】

ちまたでは 「猫鍋」 など 「猫ブログ」 が話題になっている。その頃、中学生の私は母に 「この家の猫達って小説になりそうだね」 と言っていたことを思い出した。

近頃は昨晩のおかずを何にしたか思い出せなくなってきているのに、うまく30年前にタイムトラベルができるか心配したが、若い日の遠い記憶とは凄いものである。

執筆にあったて、猫だけでは何かもの足りず、個性豊かな母との掛け合いが良いスパイスになってくれた。そんな母もやがて喜寿を迎える。いつ迄も元気でいて欲しいと思う。

この「猫屋敷」は、前作「ツノ男爵」に続く作品だが、この度も編集に当たった父には大変な手数をかけてしまったようで、もう、結構!との声が聞こえてきそうだ。



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