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☆ゆきむら殺人事件

ゆきむら殺人事件 第二章喧騒の中のキッチン(3) 作 元川 芹香

二人が食べ終えた頃、フロアーから堺が上がってきた。「堺さん、お疲れ様でした。何か食べますか作ってきますよ」 山崎は、堺を気遣って尋ねた。

「ううん、きょう11時入りだったから家で軽く食べてきたの。声、掛けてくれてありがとう。そういえば、おとといの深夜久しぶりにラストに入ったのよ」

「それがね、佐々木さんと店長が丁度やっちゃっていた時だったの」 堺の話に二人は思わず身を乗り出した。堺の家は、ゆきむらのすぐ裏手にある。築4年目の一軒家に住んでいる。

近さと深夜時給に惹かれてからか、時々10時から閉店1時までの作業ラインに入っていた。「やったって、もめていたんですか?」 人一倍好奇心旺盛な山崎の目が爛々と輝いた。

「もめるというより、店長が一方的に佐々木さんを怒鳴りつけていたって感じかな」 一之瀬店には店長の中里の他にもう一人、佐々木という社員がいる。

普通ならおよそ入社4~5年くらいの経験で社員から店長に昇格するのだが、佐々木は入社2年目にして、早くも店長に昇進。異例の出世株と称賛され、新店長として他の店舗へ栄転した。

だが、赴任さきの店舗は新任店長には厳しいエリアだった。激務と生来の生真面目さからか、正月のかき入れ時のまっ最中に過労からか、倒れて救急車で救急病院へ運ばれたのである。

その後はたびたび体調をくずして、通院を繰り返した。現在は、店長達の要望により店舗を回って業務サポートをこなす、いわば友軍的な存在なのである。

佐々木の年令は、中里と同じ38才。『プリンス』 という異名がつく程、か細く少年のように華奢な体型と風貌の持ち主である。富田は彼を 『裏の店長』 略して、ウラテンと呼んでいる。 〈つづく〉

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