SSブログ

☆コント -幸の種

「幸の種」 (3) 元川 芹香

すると、鋏を手にした蟹子が現れた。「おまえは……」 「そうよ。いえ蟹江の娘よ。よくも母のことを……。この手で喉をかききりたいけれど、これは自殺なの。そして、私達は発見者よ」

蟹子と臼井で無理矢理猿渡に鋏を握らせると、力任せで喉元まで近づけた。「ち、ちょっと待ってくれ!俺が悪かったよ。でもあの時俺は、一銭も貰えなかったんだ」 「うそ!」 一瞬、蟹子の力が弛んだ。

「本当さ。あのサプリを流した奴が、偶然蟹江の薬科大時代の学友だったんだ。元々あれは奴の開発で、蟹江に話した事があると言ってた。まさか自分が引っ掛かるなんて思っていなかったさ。

風の便りに彼女が死んだと聞いた。あの頃、随分女を騙してきたが、俺の子供まで生んでくれたのは蟹江だけだった」 見上げた飾り棚の上には、セピア色の蟹江の写真と燃え残った線香が置かれていた。

まもなく駆けつけた警官に猿渡は言った。「ストーブを点けたら爆発してな、この学生達が消火器を持って助けに来てくれんだ」

一枚の日焼けた広告が、二人を乗せた救急車に踏まれ、またどこかへと飛んでいった。

【 柿の種から抽出された成分が、貴方の頭脳に最上の幸福感をもたらします。定価五千円の幸の種を特別価格千円で!さぁ、今すぐに 】 <おわり>
----------
来年の干支は申年。なぜか 「幸の種」 は猿渡の病院搬送を最後に、今年も暮れてゆきます。くる年は、良い年でありますように…。 蟹子・栗沢・蜂塚・臼井



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。