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☆縺れた綾糸

縺れた綾糸 (16) 作 元川 芹香

「由紀子ちゃん!大丈夫?」 靴を脱ぐのももどかしく部屋に踏み入った。受話器を手にしながら寝息を立てている由紀子がそこにいた。そばには10錠ほどの錠剤の殻があった。

「ゆきちゃん、ゆきちゃん!」 奈津実は無我夢中で揺さぶり起こす。「あっ、なっちゃん。どうしたの?」 紀子は焦点定まらない目で奈津実を見た。

「どうしたのじゃないでしょ!何飲んじゃったのよ?」 少し怒りぎみに聞いた。色々考えていたら、3日くらい寝られなくて、それで前にもらっていた睡剤をちょっと多めに」

「多めって、こんなに?」 奈津実は薬の殻を手に言った。小さくうなずいた由紀子に、ひとまず安心した奈津実は、受話器を取り静江へかけた。

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由紀子は誰よりも貪欲に愛を求めた。どんな時でも自分を正面から見てくれないと不安でたまらない。壊れやすいガラスの心はいつしか成長が止まっていた。

混沌とした生活の中で、一筋の光が見えた。 『今度ばかりは幸せになれる』 『普通でもいい暖かい生活したい』 と願う由紀子はついに結婚する決意する。

相手は7才下のアパレル店の店長、長谷川良太。出会いは由紀子が勤めていたバーだった。客として接しているうち、誠実な良太に由紀子の凍り付いた心は次第に解け始めていった。

交際が進むにつれて、信頼できるだろう彼に人生の転換を賭してみようと、由紀子はそう思うようになった。

静江も、奈津実も、節子も、あの誠治ですら心から喜び、皆が由紀子の幸せを切望した。この結婚が、彼女を救う一縷の望みである。

お盆の墓参りで偶然、静江は誠治夫婦と一緒になった。静江がお墓に手を合わせたあと、誠治に聞いた。「ゆきちゃんから、電話あったんだけど結婚するんですって?」

「そうらしいな。今度はうまくいってくれればいいが…」 ぽつりと誠治が呟いた。「あんたさえチャチャいれなきゃ、うまく行くのよ。今度はそっと見守ってやりなさい!」 と、静江は弟を諭した。

「お義姉さん、ありがとうございます。本当、そうなんです。あの子の病気も、まだ今ひとつだし…」 節子も今度ばかりは誠治に、じっとしていて欲しく思っていた。 <つづく>



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