SSブログ

☆縺れた綾糸

縺れた綾糸 (10) 作 元川 芹香

当然ながら省吾も旅館をやめ、次の仕事をさがし歩き回ったが、なかなか難しかった。やっと決まっても、なぜか後日断りの電話がかかってくる。

それが誠治の指しがねと知ると、省吾は由紀子さえも拒絶してしまう。「もう別れよう!僕は疲れた。君を見てると、あの社長を思い出す。お願いだから、この家出ていってくれないか!」

由紀子は自分を守ってくれなかった省吾に心を残しながらも、静江に助けを求めるように村山家に転がりこんだ。外から風に乗って盆踊りの囃しが微かに聞えてきた夜だった。

静江はどんな形であれ、娘が村山に戻って来てうれしかった。省吾と誠治の板挟みが原因で、由紀子が「うつ」を発症したこの時かも知れない。

虚ろな目の我が子を気の毒に思った。25年の穴を埋めようと献身的に由紀子を看た。しかし由紀子は、 『静江が、生まれて来る自分より、弟の誠治との約束を取った』 ことを責める。

なにかにつけ辛くあたられたられた静江は、耐えられきれず心を痛め寝込んでしまう。由紀子の電話でそのことを知ると、節子が由紀子を迎えに来た。

「お義姉さん、具合はどうですか?由紀子のことで、迷惑かけて本当にごめんなさい。疲れたでしょう」静江には、その口調が勝ち誇ったように感じられた。

「節子さん、私こそお役に立てなくてごめんなさいね。ミイラ取りがミイラになっちゃうところだったわ」 静江は悔しく響いた。

「由紀子は誠治さんと一緒に住めないと思うから、今日、隣り町にアパート借りて来たの。しばらくは私も様子を見に通うつもりです」

「その方がいいわ。ゆきちゃん、今、私ん家の二階にいるから呼んで来るわね!」 玄関の外で寄り添って帰る親子の姿を見送った。静江にはなんとも言いようのない空しさだけが残った。    <つづく>

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。