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☆ 「モズの穴」

もずの穴(23) 元川 芹香

「昨日、龍神伝説って言ってたけど、それってどんな話なの?」 もう、二個目のおにぎりを掴んでいた山猿に尋ねた。

「伝説っていってもよくある作り話さ。二つあるんだ。ひとつは、この池を下った集落に伝わる話でな。昔、そこに住んでいたきれいな姫が、戦で怪我をして倒れていた武士を助けたんだ。

その姫と武士は仲良しになったんだけれど、姫の母ちゃんが武士の鎧をみて、『きっと偉いお侍さんに違いない。姫の婿にしましょう』 と言い出した。でも、武士は何も言わなかった。

母ちゃんは逃げられると思い、武士の足に赤い糸を結ぶよう姫に言いつけた。朝起きると武士の姿はなく、大きな赤い糸の玉が小豆ほど小さくなっていた。

二人はそれをたどって行くと、この池のほとりにたどり着いたんだ。すると、池の中から一匹の青い龍が空高くせせり上がった。

驚いていた姫に向かって、『落ち武者が投げ捨てた矢が、からだに刺さって苦しんでいたところを、あなた様に助けてもらいました。このご恩は一生忘れません。

この土地が豊かに潤うよう、私はこの池の主として生涯お守りしています』 と礼を言うと、また池の中に潜っていったということだ。お終い」話し終わると、山猿は手にしたおにぎりを三口ほどで平らげた。

「なんか、平家物語にも似たようなものがあるなぁ?」 「似ているって、そっちが本家に決まってるさ。その頃の王族が隠れ逃げて来た時、この辺りを通ったという言い伝えがあるんだから」

山猿は、手についた米粒を名残惜しそうにペロペロ舐めた。「なるほど…で、もう一つの伝説というのは?」 「それはこの付近に伝わる昔話だ」 <続く>

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