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☆「モズの穴」

もずの穴(20) 元川 芹香

「じゃあ、この小さな穴には蝉の幼虫が入っているんだね」 「99%はね。こっちの大きな穴は既に空き家だ。いいか見てろよ。こういう長い細い木の枝をこの穴に入れる」 ほ~ら、釣れただろ…。

山猿が釣り上げた桑の枝の先には、脱皮前の蝉がしがみついていた。「すごい!面白そう。でも、それ釣ってどうするの?」 「蝉になるとこ見るんだ。すごいぞ、仮面ライダーが変身するみたいでさ」

見たことないだろうと、もずを黄色いTシャツの右胸にくっつけ、山猿は 『変身!』 と奇妙なポーズをした。「どっちもないよ。よし、ボクもやってみよう!」

「なんだ。白チンは仮面ライダー見てないんだ。もず採りは素人にはむずかしいかもな」 「山猿に出来てぼくに出来ないはずがない…」

あった、あった。山猿が見つけたのと大きさの穴に、ボクは小枝を突っ込んだ。しかし、何度も引き抜くが、いっこうに引っかかってこない。

そこで、ボクは閃いた。手水舎に行くと、金色のひしゃくで水を汲んで持ってきた。「それどうするんだ?」 山猿の顔が曇った。「まぁ、見ててよ」

ボクはもずの穴にひしゃくの水を注ぎ入れる。すると、あっさりと鎌のような前足で這い上がってきた。「ほ~ら、こっちのほうが簡単だろ」 上がってきたもずが、逃げ出そうとしたのを捕まえようとした。

と同時に山猿がボクの上に飛び掛ってきた、「オマエ、何てことするんだ」 山猿はぼくのポロシャツの襟元をぎっしりと両手でつかんだ。「く、苦しいョ。ボク何か悪いことした?」

「もずが可哀想だろ。それに蝉は7日間しか生きられないんだ。なのに、大人になれないまま溺れ死んだらどうする!」 赤く眉毛を釣り上げた顔で、拳を頭の上に振り上げている山猿。

「だって、どうせ7日後には死ぬんだろ」 ガクンと山猿はうなだれた。ボクの一言は、殴る意欲さえもなくしたようだ。

「白チンのバカヤロウ!」 叫びながら、山猿は走って去って行った。 <続く>

タグ:モズの穴
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