☆ 「モズの穴」
もずの穴(19) 元川 芹香
この池に龍神が棲んでいるという伝説があって、龍の張りぼてが行列を作って村を練歩いている大きな写真が掲げてある。山猿は、龍神はこの神社のご神体だという。
他にも稲作の神様。「ほらっ、八木という字は縦にならべると米になるだろう、豊饒の神様ともいう。あと、雨乞いの神様。これはそこの川が雨で度々氾濫してからだそうだ」
「じいちゃんは 『龍神様の悪戯じゃ』 なんて言ってるけどね。それと、太陽の神様。ここには色んな神様が同居しているんだ」 「へぇー、その龍の住む池に行ってみたいな。ここからは遠いの?」
もちろん、龍なんていう架空動物が実際にいるなんて思っているわけではない。けれど、稲村ケ崎の龍神伝説と同じく、人の心をとらえるものがその池にはありそうな気がして見てみたくなった。
ボクたちは拝殿を出た。「そんなに遠くはないけど…、でも止めといた方がいい」 山猿はすたすたと階段を下りていく。「どうして?」 ボクはそのあとを追いかける。
「どうしてもだ」 「じゃあ、ぼく一人で行くからいいよ」 山猿は振り返って言った。「一人はダメだ。…しかたないな。道案内してやるよ」
「ほんとに?嘘つかないでね」 「武士に二言はない」 「山猿が武士?君はどう見ても民間人の子供だよ」 「まぁいいさ…。あっ、もずの穴だ」 土の上に鉛筆の先ほどの穴を見つけてかけよった。
「もずって鳥の百舌鳥のこと?」 「偉そうな口聞くくせに、もずも知らねーのか。蝉の幼虫の穴だ」 山猿はぼくが手にしたほとんど実を食べつくした桑の枝を取り上げ、葉っぱと余計な枝をむしる。
「それなら、蝉の幼虫の穴と言ってよ」 「ここらでは、成虫になる手前の幼虫を "もず" って呼ぶんだ」 「変な呼びかただね!でも、どうして土の中から出てくるの?」
「なんでも博士の白チン君、昆虫のことは全く知らないらしいな」 蝉は成虫になってから、わずか7日間の間で交尾し枯れ枝なんかに卵を産み付ける。ふ化した幼虫は、土の中で長い地下生活に入る。
その期間は、アブラゼミで6年にも達する。成虫になると、野外では1か月ほどとの命だ。山猿は、さも得意そうな顔でうんちくを傾けた。 <続く>
この池に龍神が棲んでいるという伝説があって、龍の張りぼてが行列を作って村を練歩いている大きな写真が掲げてある。山猿は、龍神はこの神社のご神体だという。
他にも稲作の神様。「ほらっ、八木という字は縦にならべると米になるだろう、豊饒の神様ともいう。あと、雨乞いの神様。これはそこの川が雨で度々氾濫してからだそうだ」
「じいちゃんは 『龍神様の悪戯じゃ』 なんて言ってるけどね。それと、太陽の神様。ここには色んな神様が同居しているんだ」 「へぇー、その龍の住む池に行ってみたいな。ここからは遠いの?」
もちろん、龍なんていう架空動物が実際にいるなんて思っているわけではない。けれど、稲村ケ崎の龍神伝説と同じく、人の心をとらえるものがその池にはありそうな気がして見てみたくなった。
ボクたちは拝殿を出た。「そんなに遠くはないけど…、でも止めといた方がいい」 山猿はすたすたと階段を下りていく。「どうして?」 ボクはそのあとを追いかける。
「どうしてもだ」 「じゃあ、ぼく一人で行くからいいよ」 山猿は振り返って言った。「一人はダメだ。…しかたないな。道案内してやるよ」
「ほんとに?嘘つかないでね」 「武士に二言はない」 「山猿が武士?君はどう見ても民間人の子供だよ」 「まぁいいさ…。あっ、もずの穴だ」 土の上に鉛筆の先ほどの穴を見つけてかけよった。
「もずって鳥の百舌鳥のこと?」 「偉そうな口聞くくせに、もずも知らねーのか。蝉の幼虫の穴だ」 山猿はぼくが手にしたほとんど実を食べつくした桑の枝を取り上げ、葉っぱと余計な枝をむしる。
「それなら、蝉の幼虫の穴と言ってよ」 「ここらでは、成虫になる手前の幼虫を "もず" って呼ぶんだ」 「変な呼びかただね!でも、どうして土の中から出てくるの?」
「なんでも博士の白チン君、昆虫のことは全く知らないらしいな」 蝉は成虫になってから、わずか7日間の間で交尾し枯れ枝なんかに卵を産み付ける。ふ化した幼虫は、土の中で長い地下生活に入る。
その期間は、アブラゼミで6年にも達する。成虫になると、野外では1か月ほどとの命だ。山猿は、さも得意そうな顔でうんちくを傾けた。 <続く>
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