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☆「モズの穴」

もずの穴(14) 元川 芹香

「惇ちゃん。あの大きな鞄の中身は本当に全部本なの?パジャマとか着替えとか持ってこなかったの?」 「うん」 フジ子さんはたぶん呆れている。なぜなら、フウッと大きな息を一つ吐いたからだ。

「うんじゃないでしょ。明日、隣町に買出し行かなくちゃダメね」 「急がなくてもいいよ」 「 パンツはどうするの!洗濯している間、ノーパンでいるわけ?」

フジ子さんの声がキンキンしてきた。興奮しているんだろう。「ジージのパンツ借りるから」 「ジージのじゃ大きくてこんにちわって、顔を出しちゃうでしょ」 それでもいいのといいながら…

「幸恵ったら、どんな風に育てたのかしら」 ボクがスポーツバックから取り出した本を見てフジ子さんは 「あら、『ジャンコクトーの恐るべき子供たち』 なんて、ずいぶん大人びた本読んでいるのね」

この本難しいでしょうといいながら、パンツのことは、もういいんだなと思い 「うん、難しい。フジ子さんそれ知ってるの?」 「知っているもなにも、こう見えても学校一の文学少女だったの」

母さんの本好きはフジ子さん譲りようだった。「あなたぐらいの年の頃は 『赤毛のアン』 なんか好きで読んでいたわ」 モンゴメリーが、その頃の正統派児童文学作作家だったようだ。

フジ子さんはその本を読むともなくパラパラめくり、またため息を、今度ははぁーと小さな息をはいてから言った。「惇ちゃん、せっかく田舎に来たんだ,外に出てどこか探検したら?」

母さんがいつも話していた。フジ子さんは一度言い出したら、それが実行されるまで言い続けるって。それに、ここで反発する理由がボクには見つからない。

「そうだね。じゃあ、ちょっと出かけてくるよ」 マシンガンのような質問攻めから解放されたボクは、ジージが話していた八木森神社にでも行ってみることにした。 <続く>

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