☆「モズの穴」
もずの穴(12) 元川 芹香
「さぁ着いたわ!久しぶりよね。惇ちゃんが我家に来たのは」 沢山の草花に囲まれた白い家の前で車は止まった。「うん。小学三年生の夏に来た」
フジ子さんは隣町で水彩画の教室を開いている。ジージは何をする人かわからないけれど、まっ白な髪の毛を後ろで結んでいる。それだけで普通のお爺さんとは違うみたいだ。
「じゃあ、三年ぶりね。なんにも変ってはないわ」 「変わったぞ。ほら、八木森温泉ができた」 「温泉?行きたいな」 「よし決まり。惇ちゃんの歓迎祝いはそこでやりましょう!」
「フジ子さんの決断力の速さはハヤブサなみだね」 「ハヤブサっていや、ここはハヤブサの里とも言われてるんだぞ。でな…」
フジ子さんは呆れ顔でジージを見ている。「もう、いい加減にして頂戴!惇ちゃんだって疲れてるんだから。さぁ早く家に入って、ひと休みしましょう」
車からおりると、ジージがトランクからボクのスポーツバックを取り出して言った。「惇坊の鞄やけに重いけど、何が入ってるんだ?」
フジ子さんの家から歩いて二十分位。八木森温泉の入館手続きを済ませたフジ子さんは、「どうする?」 とぼくに聞いてきた。それって、女湯に入るかってこと?うそでしょう。
「ボクはジージと入る」 すると、ジージはボクに耳打ちしてきた。「あの人、最近頭がおかしいんだ」 と勝ち誇った顔のジージ。ちょっと、淋しそうな後ろ姿のフジ子さん。
ボクはジージと露天風呂に行く。「今日の変わり風呂はバラ風呂だってさ。フジ子さん可哀想に、この時間は男湯がそのバラ風呂の時間だ。しっしっし」
「ジージは酒風呂とかが良かったんじゃない?」 「よくわかるな。酒風呂だったら、ずっと潜水やるんだけどなぁ?」 露天風呂も変わり風呂のほかに四つくらいの湯船がある。
ボクの性格上、全部制覇しないと気がすまない。「惇坊。ジージはのぼせそうだ。先に上がってるぞ」 「うん。ぼくもすぐ行くから」 少し火照った体を岩場で冷やす。
そこからは、遠い山並みに夕日が沈んでいくのが見えた。 <続く>
「さぁ着いたわ!久しぶりよね。惇ちゃんが我家に来たのは」 沢山の草花に囲まれた白い家の前で車は止まった。「うん。小学三年生の夏に来た」
フジ子さんは隣町で水彩画の教室を開いている。ジージは何をする人かわからないけれど、まっ白な髪の毛を後ろで結んでいる。それだけで普通のお爺さんとは違うみたいだ。
「じゃあ、三年ぶりね。なんにも変ってはないわ」 「変わったぞ。ほら、八木森温泉ができた」 「温泉?行きたいな」 「よし決まり。惇ちゃんの歓迎祝いはそこでやりましょう!」
「フジ子さんの決断力の速さはハヤブサなみだね」 「ハヤブサっていや、ここはハヤブサの里とも言われてるんだぞ。でな…」
フジ子さんは呆れ顔でジージを見ている。「もう、いい加減にして頂戴!惇ちゃんだって疲れてるんだから。さぁ早く家に入って、ひと休みしましょう」
車からおりると、ジージがトランクからボクのスポーツバックを取り出して言った。「惇坊の鞄やけに重いけど、何が入ってるんだ?」
× × × × × ×
フジ子さんの家から歩いて二十分位。八木森温泉の入館手続きを済ませたフジ子さんは、「どうする?」 とぼくに聞いてきた。それって、女湯に入るかってこと?うそでしょう。
「ボクはジージと入る」 すると、ジージはボクに耳打ちしてきた。「あの人、最近頭がおかしいんだ」 と勝ち誇った顔のジージ。ちょっと、淋しそうな後ろ姿のフジ子さん。
ボクはジージと露天風呂に行く。「今日の変わり風呂はバラ風呂だってさ。フジ子さん可哀想に、この時間は男湯がそのバラ風呂の時間だ。しっしっし」
「ジージは酒風呂とかが良かったんじゃない?」 「よくわかるな。酒風呂だったら、ずっと潜水やるんだけどなぁ?」 露天風呂も変わり風呂のほかに四つくらいの湯船がある。
ボクの性格上、全部制覇しないと気がすまない。「惇坊。ジージはのぼせそうだ。先に上がってるぞ」 「うん。ぼくもすぐ行くから」 少し火照った体を岩場で冷やす。
そこからは、遠い山並みに夕日が沈んでいくのが見えた。 <続く>
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