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☆「モズの穴」

もずの穴(9) 元川 芹香

「うん。でも、ボク焼いたお餅のほうが好き」 「あらそう。なら焼餅を入れよう」 新潟名物の雑煮に、焼餅を入れることにした。

短冊の大根や千切りの人参、牛蒡、干し椎茸、鶏肉と焼き豆腐。具沢山のしょうゆ風味の汁物。フジ子さんのお雑煮には焼き鮭とイクラが入っている。

いつまで経ってもフジ子さんは、ウサギや毒入りカレーの話を聞いてこない。「フジ子さんはどうしてこの家に来てくれたの?」

「お父さんから電話があったからよ。『惇一を頼みます』 って」 「それだけ?」 ― それだけって、 そんなはずがない。―

きっと大人の事情で黙っているんだ。フジ子さんのほほ笑む顔を見ていたら、ボクは秘密にしておくのが耐えられなくなってきた。

「ボクね。母さんを殺したアイツに復讐するため毒をもったんだ。アイツそれに気づいて、殺されるのが怖くて、ボクから逃げたんだ」

そして、母さんが死んだときよりも沢山泣いた。フジ子さんはボクを力いっぱい抱き寄せ、こそばゆくなるほど頭を撫でながら言った。

「辛かったね。幸恵は生まれたときから、長くは生きられないだろうって言われてたの。でも、淳一がこんなに大きくなるまで生きていられたから幸せだったと思うわ」

今までボクに何があったか、フジ子さんにはわからない。でもアイツは何も言わなかった。涙声で 『惇一を頼みます』 ってひと言だけ。それで、すぐに飛んで来たのだ。

惇ちゃん、ちょっと 『元気の種』 を拾いにフジ子さんたちの田舎に来てみない?」 夏休みもお終いだという日に、フジ子さんはボクを誘ってくれた。 <続く>

タグ:モズの穴
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