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☆「モズの穴」

もずの穴(6) 元川 芹香

アイツが買い置きした材料でカレーを作った。中にこの粉を一振り入れる。もちろん、全部ではない。あくまでも一振り…。

そして、また明日、一振り。少しずつ、少しずつ、じわじわとだ。ボクは置き手紙を書いた。―おかえりなさい。カレーを作りました。ぼくは先に食べました。では、おやすみなさい―

考えたら、母さんがいなくなってからアイツとまともに話していない。そもそも、手紙など幼稚園の 「父の日」 以来だ。かえって怪しまれてしまうかもしれないと思ったので、すぐに手紙を破り捨てた。

食べたという過程で予想すると、手足が痺れて軽い吐き気と下痢がおきるはず。こどもの体の大きさを計算に入れないと、すぐに痙攣してしまうから、慎重すぎるくらいの量しか入れてない。

―なんでもなければ、また増やせばいい―

「惇一。父さん、腹の調子が悪いから店ちょっと遅れていく。お前は学校どうするんだ?」 「今日は一学期の終業式だから行くよ」 「そうか。もう夏休みか」

―まずまずの成功か―

ところが反対の、大失敗だった。教室に入ると、ボクの登校を待っていた教頭先生がやってきて、「保健室へ行きなさい」 と言った。 たぶん、昨日の実験が見つかってしまったんだと思う。

保健室には担任の先生はいなかった。女の保健師さんが、「こっち、こっち」 とぼくを手招きして、保健室と繋がったカンセリングルームにボクを呼んだ。

この部屋は、ボクの部屋と同じくらいの大きさで真ん中には応接セットと校庭が見える窓が一つ。どこも白く埃っぽいところを見るとあまり使われてないようだ。 <続く>

タグ:モズの穴
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