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☆エッセイ「耳の中の妖精」

耳の中の妖精 (三) 芹香ママ

七十才を過ぎたころ、ジョギングのやり過ぎからなのか、膝が痛み始めた。整形外科で骨粗しょう症といわれ、メガネなしで読めた新聞も近頃ボケてきた。眼科では加齢黄斑症との診断。

ペ・ヨンジュンでお馴染みの眼鏡メーカーのお世話になっている。最近、声もかすれだし、歌をうたうことも億劫になった。NHKの 『ためしてガッテン』 によれば、これもまた加齢からくるものだと言う。

お医者さんは、老人たちには 『老化』 が原因とは言わない。多少ごまかし気味にもとれる 『加齢』 と表現する。ジョークのような話だが、ある病院の待合室でのお年寄りの会話。

「何ですかねえー、カレイ(鰈)とかカレーってどういうことですか?」

西洋の格言に、「幸せは気づかぬうちに、ひとつずつやってくるが、不幸は群れになってやってくる」 とある。体の衰えも束になってやってきたのだと、身をもって実感したいる昨今である。

あの夜、妖精たちが話していたことは、幻想か妄想のようだったが、このあとも続くかもしれないという。それもまた、楽しみの一つと考えよう。

何でも、いつでもどうぞと、あるがままを受け入れて残りのわずかな人生をポジテブに送ろうと思っている。の夜更け、遠くから聞こえる話声で目が覚めた。

ベッドサイドの目覚まし時計は、午前一時半を指している。隣にある夫の部屋からは、物音ひとつしてこない。一度目が覚めるとなかなか寝つけない。

レースのカーテン越しで見る外は、月明かりでほの白く、庭で鳴く虫の音も弱々しい。また、目を閉じた。ウトウトとしている。

今度はハッキリと聞こえた、私の左の耳に。その話声は、カタツムリの殻状をした館に棲む妖精たちのからのようだ。

「私たちの家主は、そろそろ次の世界に移ってもいい齢なのに、赤やピンクにオレンジ色の洋服ばかり着ていてさ、人から影口ささやかれているの。分からないのかね」

言っているのは、耳が少しとがったどんぐり頭の妖精だ。少しも可愛くない。背中に羽根を背負っているから妖精に見えたのかも知れない。 <続く>

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