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☆エッセイ 「耳の中の妖精」

耳の中の妖精 (一) 芹香ママ

ある日の夜更け、遠くから聞こえる話声で目が覚めた。ベッドサイドの目覚まし時計は、午前一時半を指している。隣に夫の部屋からは、物音ひとつしてこない。

一度目が覚めるとなかなか寝つけなたちである。レースのカーテン越しで見る外は、月明かりでほの白く、庭で鳴く虫の音も弱々しい。また、目を閉じた。

ウトウトとしている。今度はハッキリと聞こえた、私の左の耳に。その話声は、カタツムリの殻状をした館に棲む妖精たちのからのようだ。

「私たちの家主は、そろそろ次の世界に移ってもいい齢なのに、赤やピンクにオレンジ色の洋服ばかり着ていてさ、人から影口ささやかれているの。分からないのかね」

そう言っているのは、耳が少しとがったどんぐり頭の妖精だ。少しも可愛くない。背中に羽根を背負っているから妖精に見えたのかも知れない。

「でもね、若い頃はチャ・チャ・チャだったそうだよ」 同じような、もう、一人が言う。「なに、それって」 始めの妖精に聞き返した。

「茶色い服ばかり着てたから、チャ・チャのチャなの」 「そう言えば家主の若い頃、チャ・チャ・チャのリズムが流行ってたんだって」 また別の妖精が、「マンボの踊りも楽しかったそうだよ」

さぁさ、踊ろうヘイ・マンボ。楽しいリズムで、チャッチャッチャー。三人で踊り始めたから、さあ大変。頭はガンガン 『ああっ、やめてェ!やかましい!』 私は叫んだ。

ピタッと止まって、もとの静寂が戻った。やれやれ、今度こそ眠ろうと 「ひつじが一匹、ひつじが二匹……」 数えて七十八匹目になると、また、妖精たちの会話が始まりだした。 <つづく>

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