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☆エッセイ 「里山を歩く」

里山を歩く (二) 芹香ママ

「あっ、あれ!」 後から歩いてきた男の子から、突然声が上がった。彼は小二くらいかな? 指さす方を見ると、ヤモリが長い尾をくねらせながら斜面にできた赤土の穴に消えていくところだった。

越後るり草の鮮やかな姿が目をとらえた。延命草が三枚葉のうえに褐色の花を咲かせている。涼しげな水音のする水路には、孵化して間もないオタマジャクシが黒い固まりをなしている。

男の子は、はしゃいで水辺に近寄った。「そこへ行ってはダメ!」 ガイドに叱られ、しょんぼりと引き返した。自然の中で久しぶりの腕白だったろうに、少し可愛そうにとも思えた。

「あの茶色い大きな植物は何ですか」 と聞く、座禅草だという。座禅をする達磨大師に見立てたのだと話してくれた。湿地帯の木道を行く。大きな白い花の水芭蕉が、私たちを出迎えているようだ。

鶯の鳴く方に目をやる。山いちめん萌黄色の中で、赤松の深緑と点々とした山桜の薄紅色がなんとも表現ができないほど見事な色相を醸しだしていた。

湿原一帯には黄色い猿猴草が、あたかも手長猿が手をのばしたような茎の先に花をつけていた。出口近くに、白い花房を付けた珍しい木がある。

『法令の木』 と呼ぶのだそうである。むかし飢饉のとき、葉が食用になるからと法令が出たことからつけられた名前らしい。

白と赤に咲き分けした椿園を過ぎて、来た時は気付かなかった大山桜が今を満開と咲き誇る。夏には、源氏と平家ボタルがこの湿原を飛ぶと聞く、その幽玄の世界を思い浮かべながら。

春の陽に体も心も癒されて帰途に就く。青い空の下、黄色い蝶が一匹飛んでいた、平和っていいなぁ… と、つくづく思った。 <終わり>
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エッセイ「里山を歩く」は終わりました。次週火曜日は続いて、芹香ママさんの作品を掲載する予定です。お楽しみに!

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