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☆縺れた綾糸

縺れた綾糸 (1) 作 元川 芹香

蝉の泣き声もまばらなり始めたある朝、出産してまもない静江が、まるで玩具を取り上げられた子供の様に三面鏡の前で泣きじゃくっていた。

5才だった奈津実は幼心にもそれが母とはまったく別人に思え、側に寄る事が出来ず、ただ呆然と見ていた。生まれたばかりの妹は、静江の弟夫妻の養女として、この日引き渡されたのだ。

この夫妻は不運な事に子供に恵まれなかった。しかし、家業を手広く経営していたため、何としても跡継ぎが欲しかった。そんな時期、40にさしかかった静江が3度目の妊娠をした。

血縁の養子縁組を強く望んでいた静江の父と弟の懇願の末、出産前に養女に出す事を約束してしまった。とは言え、いざ腹を痛め乳を与え幾日かでも過ごせば、手放す気になる筈もなく…。

気が狂わんばかりに泣く静江の心情など知る由もない。奈津実の妹はその日、新しい母親になる節子に抱かれ山村の家を後にした。 <つづく>
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「ゆきむら殺人事件」は終わりました。続いて今週から「縺れた綾糸」を連載します。ご愛読ください。(元川)

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